書評『旅のラゴス』

 最近、小説の書評記事の更新が止まっていました(-_-;)。どうしてもこの時期は、テストやレポートに追われるんですよね。
そういえば、江古田文学賞の99号を読んで最終選考に残った作品を読んでたんですけど、どの作品もこだわりが感じられるいい作品で新鮮でした。ああいう尖った個性のある文章を書いてみたいな。
 さて、本題に入りましょうか。

小説の情報

旅のラゴス
著者: 筒井康隆
文庫: 新潮文庫

旅のラゴス (新潮文庫)

旅のラゴス (新潮文庫)

書評


 これは高度な文明を失った代わりに人々が超能力を獲得しだした世界で、旅をするラゴスという男の物語。
散在する都市を渡り歩くラゴスは、その都市の価値観や人々の性格などに触れ何を感じるのか。
 そして、ラゴスの追い求めるものとは何なのか?

 一人の人間の生涯をかけた旅のおはなし。

 この本は短編が連なって一つの物語を形成するという体裁をとっている。これはリズムよく読み進められたため好印象だった。また短編集にありがちな一辺倒な構成に落ち着くという物語構成になることもなく、それぞれの話にストーリーの差異を感じさせるように書かれている点が技術力を感じさせる良い本であった。

 具体的に内容の考察に入ろうか。

 ラゴスは旅をする中で、様々な街を訪れ、いろんな人々に出会い、不思議な体験をしていく。不思議な体験を通して主人公のラゴスとそのほかの人々との価値観の差異を面白おかしく表現しているストーリーというのがこの物語の大きなコンセプトのひとつだろう。ここで、ラゴスではなく平凡な人間が主人公だったらこういうストーリーになっただろうかというのを考えてみると、この物語にはラゴスがいなければこういう展開にならないだろうと思われるものが存在していることに気がついた。
文章中から引用して示した方がわかりやすい。例えばこの記述は注意すべきだろう。

「やっぱりあんたは自分のことを知らないんだよ。あんたはね、自分が正直でいい人間だということを知らない間に撒き散らすみたいにして周囲の者に教えているんだよ。それを感じとれない人間だっているんだろうけどね。
(中略)
それにそれは雰囲気なんてもんじゃない。もっと確かなものだよ 」

 この描写ではある街のおばあさんがラゴス(主人公)に向かって発言している部分である。このおばあさんはラゴスのことをあたかもわかったように語っているが、この場面では、2人はお互いの名前ぐらいしか知らない関係にあるはずである。しかし、おばあさんが確信を持った発言をしていることから、おばあさんには他人の能力を見透すチカラのようなものがあり、ラゴスも何らかの超能力を持っている可能性があるということを醸し出す描写になっている。
 他の都市でのラゴスとその周りの人たちの様子からも、ラゴスの人の良さが周りの人々を惹きつけるような描写が物語全体を通してちりばめられているのである。
 完全に妄想でしかないといわれても仕方がないことだが、本のタイトルになるほど重要な人物のラゴスがただの旅人であるはずはない。

 全体を通して考察をすることができるようにあえて答えを書いていない(であろう)場所は多い為、じっくり読みたい人にオススメできる作品。

そういえば、ラゴスさんが想い続けてた子は何で惹かれたんだろう。一目惚れってそんなに強いのかな。個人的には奴隷時期に一緒にいた人の方に、情が湧く方が自然な気がするんだけどね。

 読んでみてわかったら是非コメントで教えてくださいね(^^)





旅のラゴス 

最後まで見ていただきありがとうございます。また別の記事でお会いできることを祈っております。



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書評『14歳とイラストレーター 2』

ラノべの情報

14歳とイラストレーター
著者: むらさきゆきや
イラスト: 溝口ケージ
レーベル: MF文庫J

14歳とイラストレーター2 (MF文庫J)

14歳とイラストレーター2 (MF文庫J)

書評


 玄関に突然現れた金髪の女性マリィ=マルセル・コクラが乃ノ香に抱き着いて——!?

「キャー、かわいい! ユウトくん、いつの間に、こんなにもキュートになっちゃったの!?」

マリィはユウトがイラストを担当しているラノベの作家であること、さらに彼女が乃ノ香の好きなラノベの作家であることを知り衝撃を受ける。続けてマリィはとんでもないことを言い放つ。

「私は脱出したいの! 国内でもいいよ、温泉に行こう! 東京から遠いとこ!」

どうやら編集者と喧嘩をして逃亡を企てているようだ。
 こうして気分転換を兼ねて悠斗と乃ノ香とマリィは長崎の雲仙へ行くことになる。破天荒な性格をしたマリィに振り回されながらも旅行を満喫する3人。温泉に乱入してくるマリィと乃ノ香⁉

 第2巻は温泉回でした。2巻から登場した作家のマリィがメインで書かれていた印象。
 一言だけ言わせてほしい。とにかく女の子たちが可愛い……‼ 

「ユウトくん! 私の写真が欲しいなら、言ってくれればいいのに!」
「いやいやいや……どう考えても、風景を撮ってたでしょ」
「いつでも脱ぐよ?」
「やめて!」

 マリィの発言が斜め上を行き過ぎて、悠斗とマリィの会話がまさにボケとツッコミの応酬って感じで楽しめた。なんだろう、テンポがいいのかな……?

 1巻目に登場したキャラクターは悠斗達が旅行に行っている間の様子が書かれていて物語に厚みが増したように感じる。自分の推しキャラのハラミとナスの組み合わせで一緒に出掛ける場面は、意外な取り合わせだなと素直に思いました。というか絶対に作家さんがくっつけてみたかっただけだよね!?

 また、今回は温泉回のお話ではあるが、テーマは権利の部分である。2巻の前半部分では、ハラミが同人イベントでやらかしているシーンがある。自分はプロのイラストレーターではないから、こういった契約事項があることを知らなかったので非常に興味深かった。
 2巻の後半部分では、マリィが担当編集者と喧嘩して逃亡を図っているシーンがある。事の経緯をたどれば、小説家が書いた文章を勝手に手直ししたり、イラストを作家の許可なく通したりしてしまったことから発生した問題である。

 この小説を読みながら意外と知らない権利について知識を得られたのは嬉しい誤算だな。

 ちなみに今回も盛大に誤解を招くシーンがある。

 玄関のドアに手を伸ばす。
 内側から、乃ノ香とマリィの声がした。
「あんッ、ダメです!」
「ウフフ……大丈夫、大丈夫……イケるよ? 平気よ?」
 ——ん? なにやってるんだ?
 思わず悠斗は固まった。
 2人の声が聞こえる。
「で、でも、こんなトコ……」
「ゆっくりね? ね?」
「……やってみます……ん……ん……あッ!」
(以下省略)

 一体二人は何をしていたのでしょうね。ぜひ作品を読んで自分の目で確かめてくれ。(^^)/(ネタバレデキナイヨ!!)




14歳とイラストレーター 2 

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書評『14歳とイラストレーター』

ラノべの情報

14歳とイラストレーター
著者: むらさきゆきや
イラスト: 溝口ケージ
レーベル: MF文庫J

14歳とイラストレーター (MF文庫J)

14歳とイラストレーター (MF文庫J)

書評


 悪夢にうなされ目を覚ますとコスプレをした少女が⁉

 昨晩のことを思い出し、土下座をしているところにイラストレーター仲間の錦が勝手に上がり込んできて⁉
 イラストレーター達と14歳のコスプレイヤーによる面白可笑しい日常生活を書いた物語。

「どうしましたか?」
「女の子同士に目覚めちゃいそう」
「困りますぅ⁉」

 書評の前に1つだけつっこませて欲しい。猫の名前がワコムってどうなの!?

 イラストをデジタルで書いている人ならほとんどの方がペンタブか液タブを使っているだろう。そのペンタブや液タブを製造している最大手のメーカーがWacom(ワコム)である。そのため最初に猫の名前を見たときにおぅ⁉っと思ってついツッコミを入れたくなってしまった。特に否定をしているわけではない。むしろ小ネタとしてクスっとする要素を取り入れていて好印象だった。

 それでは書評をしていこう。この小説はコメディ要素が強い作品だ。特に主人公のユウトの部屋で主人公と少女が何かをしているとき(意味深)に誰かが乱入してくる展開が多い。別に2人はいかがわしいことをしようとしているわけではなく、いたって真面目に最高のイラストを描くために奮闘しているのだが。
 第三者から見たらそういう反応になるよな!? というようなものが本当に多くて笑えて来てしまう。
毎度、神タイミングで誰かが入ってきて誤解したり驚いたりする展開は読者視点だからこそ楽しめるんだよね。

登場人物もイラストレーター達がメインで、それぞれの思考が変な方向に向いている点がより一層リアルかつ話を面白くする要素になっている印象を受けた。
 正直、登場人物で一番しっかりしているのは14歳の乃ノ香なのでは?w

「ハラミ、ちょっと俺らは出てくるから、撤収やっとくように」
「え~⁉ なんで、あたしだけ?」
「おまえ今朝は8時集合って言っといたのに、何時に来た?」
「11時でございます。撤収、お任せください」

 ここの会話が仲のいい間柄に流れる空気間のようなものを感じさせていてグッときたな。

 とりあえず一巻を読んだ段階では僕の一押しキャラは上葉良南海ですね。変態だけど。
 ころころ態度が変わるところや、ばっさりした性格が本当にいいと思う。このキャラクターがいるのといないのでは物語の雰囲気がだいぶ変わるだろう。

 各賞の間に挟まっているSNSでのやり取りも面白い!!

「あまり重い話はちょっと……」という方はこのくらいライトな物語から読んでみてはどうだろうか。破顔すること間違いなし。
早く続きが読みたいので今回の記事はこのへんで!




14歳とイラストレーター 

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書評『世界寿命と最初の七日間 -雨宿り街短編集-』

ラノべの情報

世界寿命と最初の七日間 -雨宿り街短編集-
著者: スズム
イラスト: くろのくろ
レーベル: MF文庫J

世界寿命と最初の七日間 ―雨宿り街短編集― (MF文庫J)

世界寿命と最初の七日間 ―雨宿り街短編集― (MF文庫J)

書評

 この本は2015年の3月31日に初版が発行されている。
 どうしてそんなことを書くのかといわれると、同じ年の2015年はスズムさん(この本の作者さん)関係で事件があったことを気にしている人もいることから、スズムさんが復帰してきたという勘違いを避ける目的で最初に書かせていただいている。
 僕はどちらかの肩を持つような記事を書くつもりはない(今更掘りかえすのはよくない)のでここでは純粋に目の前の小説のみで評価していく。

 短編集のため物語の要約を割愛して早速書評をしていくと、最初に気になるのは各物語の関連性だろう。短編を集めて1つの本にまとめるからには、何かしらの共通項があったほうがあるのが普通だろう。統一性がある短編集のほうが一冊通して読んだ時の読み応え的な評価は断然良い印象がある。今回読んだ本は、「誰しもが一度くらい思ったことのあるような願いが叶ってしまったら」というようなテーマで各物語が書かれていて、どの物語も過ぎたる願いによって自分自身を失うようなお話になっている。
 
 ただ、短編のため物語の起承転結がなく、ストーリーに厚みがない印象を受けてしまった。小説の内容としては面白いアイデアだなと思ったけど、各物語の主人公の心情の変化が急すぎたり、どうしてそういう願いが叶ってしまったのかという設定の部分だったりがうまく表現できてない文章だった。
 良い点を挙げるなら、文章が短く行間があるので活字慣れしてない人でもスラスラ読める点ですかね。

 ラノベの短編集はあまり聞かないのでそういった点ではこの小説には先駆的な意味合いがあったのかもしれませんが個人的には一冊分しっかりと作りこまれている小説のほうが好きでした。
 試しに読んでみる程度の気持ちで読むぐらいがちょうどいい読み方なのかな……。

 ちなみに各物語は曲を作った時のプロットからきているらしいので興味があれば聞いてみてはいかかでしょうか。





世界寿命と最初の七日間 -雨宿り街短編集- 

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